Column

ビジネス名刺

他社の名刺を持ちたい/持たせたいときの注意事項

商品の開発・製造を行うA社は、良い商品を作っているのですが、営業力が弱く、商品の販路をなかなか拡大することができませんでした。

そこで、A社は、営業代行を営むB社に対し、自社商品の営業を委託することにしました。

この際、実際に営業を担当するB社の社員(Xさん)は、B社の名刺ではなく、「A社 営業部 X」の名刺を持って営業してもらうことを予定しています。

実際にはB社の社員であるXさんが、A社の社員であるかのような名刺を持つことについて、何か法的な問題はないのでしょうか?

以上は一例ですが、「他社の名刺を持って営業する/してもらう」ということは、一般的に良く行われていることだと思います。

他に、「他社の名刺を使う」場合の典型例としては、「システムベンダーが、自社システムを導入する企業に対し、自社の名刺を持たせた下請業者によって保守サービスを提供する」というようなことが挙げられます。

しかし、よく考えてみると、「A社の社員ではないXさんがA社の肩書の名刺を持つ」というのは、何か妙な感じがしますよね。

このことを法律的に整理すると、「A社がB社に対し、(契約の範囲内で)A社の名前を使うことを許諾している」と考えることが一般的です。いわゆる「名板貸し」というものです。

もちろん、Xさんが、何の契約もないのにA社の名前を記載した名刺を使うことは問題ですが、本件のように、A社とB社との間に契約がある場合に、契約の範囲内でB社(Xさん)がA社の名刺を使うのであれば、法的な問題が生じることはほとんど考えられません。

では、どのようなことに注意しなければならないでしょうか。

 

会社法は、名板貸しについて、「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。」(第9条)と規定しています。

これは、A社が、自己の商号(会社名)を使用することをB社に許諾しているので、Xさんの営業を受けた取引先のC社が、「XさんはA社の人だ」と考えて(誤信して)取引を行った場合には、A社は、Xさんの行った取引の責任を持たなければならない、ということです。

この「名板貸し」の責任が認められると、その責任の範囲には制限がなく、A社は、取引によって生じた債務を全て連帯して負うことになります。

つまり、A社は、通常の取引に基づく責任だけでなく、例えば、「B社(ないしXさん)に起因する取引上のトラブル」が起きてしまった場合であっても、その責任を全て負わなければならないことになりますから、注意が必要です。

そのため、A社としては、Xさんに名刺を持たせて営業させる際には、B社はもちろんのこと、Xさん自身が信用できることを確認するなどの対応を取るほか、「自社の名刺を持たせる」ことには相応のリスクがあることを理解しておく必要があります。

なお、A社が上述の名板貸しの責任を負う場合、Xさんを雇用して事業を行うB社も、A社と同じ責任を負います。

通常の取引であれば、A社が責任を負うことに異論はないでしょうが(A社は、そのために名刺を使わせているとも言えます。)、C社との間で取引上のトラブルが生じた場合、A社とB社は、C社に対して連帯して責任を負うことになります。

その上で、例えば、A社がC社に対して100%の弁済をした場合には、A社とB社との「内部的な責任割合」に応じて、A社はB社に対し、その一部又は全部を求償することになるでしょう。

では、A社が「名板貸し」の責任を回避するためには、どのような手法が考えられるでしょうか。

「名板貸し」は、「自己の商号を使用することを許諾する」ことで生じる責任ですから、Xさんの名刺に「A社 営業部 X」と記載することを許すのではなく、「A社パートナー企業 B社 営業部 X」というように、「Xさんの所属先がA社ではなくB社であること」を明記することが考えられます。

ただし、ビジネス上の判断として、このような肩書の名刺では営業効果が上がらず、また、取引先との信頼を築くことができず、B社に営業を委託した成果が出ないので、やはり「A社 営業部 X」の名刺を使わせたい、ということもあると思います。

そのような場合、A社としては、信用できる限られた者だけに名刺を使わせるなど、名板貸しの責任を負うことを理解して適切な対応をとることが良いと思います。

(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)

執筆日:令和4年6月1日