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失業時の給付(いわゆる「待機期間」)について

失業時の給付(いわゆる「待機期間」)について

1.雇用保険と失業時の給付

「雇用保険」とは、政府が管掌する強制保険制度のことで、労働者を雇用する事業は、原則として、加入が義務付けられているものです。

「雇用保険」という言葉に馴染みがなくとも、「労働保険」とか「労災保険」というと聞き馴染みがある方もいらっしゃるかもしれません。

「労働保険」は「雇用保険」と「労災保険」の総称です。

「労災保険」は、主に業務上の事由による負傷や疾病に対して保険給付を行うものであり、「雇用保険」は、主に失業したり、育児・介護で休業したりした場合に保険給付を行うものです。

今回は、雇用保険のうち「失業時の給付」について、よく話題に上がる「会社都合」と「自己都合」の違いや、いわゆる「待期期間」について解説します。

2.給付の要件

労働者が、勤務先を退職した場合、

  ① 「失業の状態」にある

  ② 雇用保険の被保険者期間が、離職の日以前2年間に通算して12か月以上あること

の2つの要件を満たした場合には、求職者給付(基本手当。以下、単に「求職者給付」といいます。)が支給されることになっています。

「失業の状態」にあるとは、

  • 就職しようとする積極的な意志があること
  • いつでも就職できる能力があること
  • 本人の努力によっても就職できないこと

の3つの状態が揃っていることを言います。

例えば、病気やけがで働けないとき(就職できる能力がありません)や、結婚などにより家事に専念しようと考えているとき(就職しようとする意志がありません)には、「失業の状態」とは言えません。

給付額は一律ではなく、基本的には「被保険者であった期間」に応じて所定給付日数(90日~150日の範囲)が決められいたり、年齢によって支給金額の上限が決まっていたりします。

また、雇用保険の受給期間は、原則として「離職した日の翌日から1年間」とされていますから、注意が必要です。

3.会社都合? 自己都合?

ところで、求職者給付について、「会社都合の退職」だと、労働者に有利である、と言われています。

これは、どういう意味でしょうか?

まず、「会社都合」「自己都合」というのは、「離職票」の記載のことです。

従業員が退職した場合、会社は、原則として「雇用保険被保険者離職票」を従業員に交付しなければならないことになっています。

この「離職票」には、退職の理由を記載する「離職理由欄」というものがあり、離職理由を記載することとされています。

この離職理由欄のひな型には、

  • 事業所の倒産等による離職
  • 定年による離職
  • 労働契約期間満了等による離職
  • 事業主からの働きかけによる離職
  • 労働者の判断による離職

などの理由が記載されており、該当する部分にチェックを付けることになっています。

この部分に、例えば、「転職希望による自己都合退職」と記載された場合には、いわゆる「自己都合」となり、「解雇」と記載された場合には、いわゆる「会社都合」となります。

そして、「自己都合」、すなわち、「正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合」(雇用保険法33条1項)には、求職者給付を申し込んだ後、2か月間(+7日)が経過しないと、給付が受けられないという給付制限があります。

(なお、令和2年10月1日以前に退職した場合や、5年間に3回以上、自己都合で退職した場合には、この期間が3か月になります。)

一方、いわゆる「会社都合」であると、基本的(※1)には「自己都合」のような制限がありません。

これが、「会社都合だと労働者に有利」と言われる理由です。

4.会社には「転職のため」と言ったけれども、実は…。

「離職票」は、会社の作成する「離職証明書」を基に作られるものですから、「離職理由欄」の記載は、会社が理解している離職理由が記載されます。

では、離職理由について、会社の主張と従業員の主張が異なる場合には、どうなるでしょうか?

例えば、従業員は、毎月60時間もの残業を行っており、いつまでも残業が減らないことから、過度の残業に耐えかねて退職を申し出たが、会社には「転職のため」などと説明した場合を考えてみましょう。

この場合、会社側は「従業員が転職する」と考えていますから、当然、離職票には「転職希望による自己都合退職」と記載されることになりますが、実際の理由は異なることになります。

上述のとおり、給付制限を受けるのは「正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合」ですから、逆に言えば、退職に「正当な理由」があれば、給付制限を受けない、ということができます。

そして、上述の「月あたり60時間」というのは、法律の定める「時間外労働の上限規制」(原則45時間/月。労働基準法36条4項)を超えるものですから、そのような会社を辞めることには、「正当な理由がある」といえます。

なお、以下のような理由で退職する場合には、「正当な理由」があるといえるでしょう。

  • 労働契約の締結に際して明示された労働条件と、実際の労働条件が著しく相違した場合
  • 給料の遅配(3分の1以上)が2か月以上続いた場合
  • 直近3か月間に、連続して45時間以上の時間外労働が行われた場合
  • 上司・同僚等から、ハラスメントや嫌がらせを受けた場合
  • 会社側の事情による休業が3か月以上続いた場合
  • 業務が法令に違反していた場合
  • 家庭の事情が急変した場合(例えば、父または母の死亡、疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合)
  • 結婚に伴う住所の変更により、通勤不可能又は困難となった場合

「離職理由」の判定は、最終的にはハローワーク(公共職業安定所)において、慎重に判定されることになっています。

会社側の一方的な主張のみで判定されることはありませんが、従業員に有利な判定を得るためには、「従業員の主張を確認することができる客観的な資料」が必要になることに留意する必要があります。

本コラムが、「退職を検討しているが、失業中の生活に不安がある」という方の一助になれば幸いです。

※1 雇用保険法33条は、「正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合」のほか「自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合」も、給付制限の対象となることを規定しています。そのため、「会社都合」であっても、「労働者の責に帰すべき重大な理由による解雇」の場合には、「自己都合」と同じく、2か月間の待機期間が生じることになります。

    なお、「労働者の責に帰すべき重大な理由による解雇」とは、例えば、以下のような場合の解雇のことをいいます。

  • 罪を犯して処罰を受けたことによる解雇
  • 故意・重過失により、事業所の設備または器具を破壊したことによる解雇
  • 故意・重過失により、事業所の信用を失墜させ、または損害を与えたことによる解雇

(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)