自己破産と免責許可
1.免責とは何か?
個人の方が自己破産の申立てをする場合、その目的は「経済生活の再生を目指すこと」にほかなりません。
仮に、自己破産をしたとしても、「それまでの借金等(破産債権)は、今後も責任を持って支払ってくださいね」と言われてしまえば、なかなか、経済生活を立て直すことは難しいでしょう。
(だからこそ、破産手続に踏み切っているはずです。)
そこで、個人の方(会社の代表者等を含みます)の場合、自己破産を行う際には、「免責許可の申立て」を行って「免責許可決定」を得ることが最終的な目標になります。
「免責」とは、「破産債権の全部または一部について破産者の責任を免れさせること」です。
平たく言えば、「それまでの借金等(破産債権)について、今後(破産手続開始後)は支払わなくてよい」ということです。
以下では、どのような場合に免責が得られるのかについて解説していきます。
2.免責の要件①(免責不許可事由)
破産法(252条1項)は、「裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。」として、免責を原則とすることを定めています。
次のいずれにも当たらない場合には、「裁判所は、免責許可をしなければならない」ということです。
逆にいえば、次の事由がある場合には免責を許可しないということですから、これらを「免責不許可事由」と呼んでいます。
免責不許可事由(252条1項各号)には、次のものがあります
① 不当な破産財団価値減少行為
→例えば、自分の財産を隠してしまったり、破壊してしまったり、誰かへの譲渡を装ったりすることが挙げられます。ほかにも、財産を誰かに低廉な価格で譲渡したりすることも該当します。
破産手続開始前に行ったとしても、この違反に当たります。
② 破産手続開始を遅延させる目的で行う不利益処分等
→例えば、破産を先延ばしにするために、著しく不利な条件でお金を借りたり、クレジットで物を買った上、安く転売してお金を手に入れるような行為が挙げられます。
高い利率で借入れをしたり、Amazonギフト券や新幹線の回数券を購入・転売して現金を入手する(換金行為)、といった行為が典型です。
③ 不当な偏波行為
→例えば、特定の債権者に対してだけ、優先的に弁済したり、担保提供をしたりすることです。
自己破産の直前に、親族や友人にだけ弁済をしたりすることがこれに当たります。
④ 浪費、賭博または射幸行為
→浪費とは、自分の財産状態を踏まえ、必要かつ通常の程度を超えた不相応な支出のこと、賭博とは、賭け事全般のこと、射幸行為とは、登記を目的とする証券取引、商品取引のことです。
具体的には、競馬、競艇等のギャンブル、風俗や高額の買い物、FX取引のことです。
⑤ 詐術による信用取引
→その時点で既に返済の見込みがないのに、積極的に嘘をついて、信用取引をして財産を取得する、という行為が典型例です。
⑥ 帳簿等の隠滅、偽造
→財産の状況に関する帳簿や書類を隠したり、変造したりすることです。
例えば、破産手続を有利に進めるために、預金通帳を偽造したりすることです。
⑦ 虚偽の債権者名簿の提出
→免責申立の際には、債権者の一覧表を提出する必要がありますが、一覧表には、全ての債権者を記載しなければなりません。例えば、「この人にだけは返したいから」などと言って、故意に一部債権者を除いた一覧表を作ることが挙げられます。
⑧ 調査協力義務違反
→裁判所、破産管財人の調査に対し、説明をしなかったり、誤った説明をすることです。
⑨ 管財業務妨害行為
→破産管財人等が行う職務を妨害することです。
⑩ 7年以内に免責許可等を得ていること
→7年以内に、免責許可等を得ていることです。
⑪ 破産手続上の義務違反行為
→破産法では、破産手続を円滑に進めるために、破産者に色々な義務を課しています。そのような義務に違反することが、これに当たります。
3.免責の要件②(裁量免責)
上記の「免責不許可事由」がある場合には、裁判所は、免責を許可しなくてもよいということが分かりました。
では、「免責不許可事由」があると、どんな場合でも免責が得られないのでしょうか?
安心してください。そうではありません。
破産法(252条2項)は、「同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」と規定しています。
これは、「免責不許可事由があっても、裁判所が相当と認めるときは免責許可をするよ」という意味です。これを「裁量免責」といいます。
では、どんな場合に裁量免責が認められるのでしょうか?
裁量免責が認められるか否かは、事案によってケースバイケースですが、以下の要素が総合的に考慮されています。
- 免責不許可事由の種類、内容、程度
- 免責不許可事由の行われた時期や経緯
- 免責不許可事由が破産手続に与えた影響
- 破産することとなった原因、経緯
- 破産者の破産手続に対する協力状況
- 破産者の反省の有無、程度
- 破産者の今後の生活設計(経済的再生の意欲、見込み)
抽象的には、免責不許可事由に該当する行為の悪質性が高かったり、今後の生活設計がなく、免責によっても経済的な再生が得られる見込みがない、というような場合には、免責が許可されないということができます。
4.どの程度、裁量免責がされているの?
インターネットを検索してみると、「ギャンブル」や「FX取引」で借金を作った場合には、自己破産をしても免責されないから弁護士に相談しても無駄だ、という情報を見かけることがあります。
しかし、そんなことはありません。
少し古いのですが、東京地方裁判所における統計では、平成24年から平成26年頃に免責許可の申立てがされた事案のうち、免責が不許可とされた事案は、全体の約0.2%に留まるとのことですから(※1)、多くの場合に免責を得ていることが実情です。
経験上、例えば、多額のギャンブルによる負債があったとしても、
- 破産に至った経緯についての丁寧な説明
- ギャンブルの勝ち負けの状況や、ギャンブルにのめり込んだ背景事情の分析
- 破産手続への真摯な協力
- ギャンブルで破産に至ってしまったことに対する反省と今後の対策
というようなことを誠実に行っていけば、免責が得られることが多いと思います。
5.免責の効果
免責を得ると、当該債権について「支払を強制されない」(責任を免れる)という効果が得られます。
通常、借金の返済を滞納している場合、最終的には、判決等に基づき預貯金等の財産に対して「強制執行」をされることになりますが、免責を得れば「強制執行をされない」ことになります。
端的に言えば、免責が許可されれば、「破産債権に対する支払いをしなくてよい」ということになります。
なお、ごく稀に、「免責を得れば、支払いをしなくてよいことは分かりました。しかし、お世話になったAさんにだけは、今後の収入から返済したいと思っているのですが、支払ってもよいでしょうか?」と聞かれることがあります。
免責許可を得た後も、債権者は、債務者から任意に弁済を受ける権利は認められる(これを「自然債務として残る」などといいます。)と解されていますから、債権者からの圧力を受けることなく、債務者が、真に任意に返済したいと考えるのであれば返済してもよい、ということになります。
この点、判例(※2)は、「破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり、少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない。」と述べていることに注意が必要です。
6.まとめ
ギャンブルや浪費等で破産に至った場合でも、多くの場合に「裁量免責」が認められていますから、過度に不安になる必要はありません。
但し、免責を得るためには、破産に至った状況を真摯に振り返り、破産手続を誠実に行って、将来の経済的な再生のために努力することが必要です。
しかし、これらのことを、返済に追われながらご自身1人で考え、実行することは難しいと思います。
そのため、支払いきれない債務の弁済に悩まれている方は、思い詰める前に、専門家である弁護士にご相談することをオススメします。
※1 東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情(続)
判例タイムズ No.1403号(2014.10)
※2 最高裁判所平成18年1月23日判決(民集60巻1号228頁)
徳島県市町村職員共済組合事件
(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)
以上