遺言書(自筆証書遺言)を書く時の注意事項
日本において「遺言書を書くこと」は、あまり一般的ではないようです。
「遺言書」を見たことがある人も、あまり多くないのかもしれません。
「ウチは家族仲が良いから、遺言書は書かなくても大丈夫」というご家庭も少なくないでしょう。
遺言書がないまま被相続人がお亡くなりになった場合には、相続人が話し合って相続財産の分け方を決めます。つまり、被相続人が亡くなった後に、相続人同士で「お金」の話をしなければならない、ということです。
また、遺言書が存在する場合でも、遺産分割協議をすることは可能です。
(なお、相続人以外に、受遺者や遺言執行者が居る場合には、受遺者や遺言執行者の同意も必要になります。)
そのため、家族仲が良くても、残された相続人の方々の負担を軽減するために、遺言書を作成することをオススメしています。
特に、近年、銀行預金はWEB通帳が一般的になりつつありますし、そもそも、通帳の発行をしないネットバンクを利用している人も多くいらっしゃいます。
また、年配の方には、「昔買ったけれども、使わずにおいてあり、固定資産税だけを払っている」といった土地をお持ちの方もいらっしゃるようです。
ビットコインを始めとした、仮想通貨で財産を保有しているという方もいらっしゃるでしょう。
このように、目に見えない(見つけにくい
)財産をお持ちの場合には、自分の財産をきちんと継いでいってもらうためにも、遺言書を書いておいた方がよいと言えるでしょう。
余談ですが、近年の終活事情では、「デジタル遺産」(財産的な価値があるデジタル化した資産)、「デジタル遺品」(財産的な価値がないデータやSNSのアカウント等)の取扱い、特に後者をどのように取り扱うかに頭を悩ませている人も多いようです。
DropboxやGoogleDriveなど、クラウド上にデータを保管している方もいらっしゃると思いますので、PCのログインパスワードや、各種ID、パスワードは、分かるようにまとめておく必要があるかもしれません。
(とはいえ、これらは、生前には見られたくないものだと思いますので、その取扱いには注意してください。)
では、「遺言書」は、どのように書けばよいでしょうか?
専門家に頼んで「公正証書遺言」を作ってもよいのですが、手軽に作れるのは「自筆証書遺言」です。
「自筆証書遺言」とは、自分で、紙に書いて残しておく遺言のことです。
お手元にある紙に、亡くなった後の財産の行先を書いておけば、それが遺言書になります。
どのような紙に書いてもよく、極端な話として、チラシの裏に書いてあっても、有効な遺言となり得ます。
ただし、「自筆証書遺言」は、内容が読めれば何でもよいというわけではなく、法律で形式が決められています。
形式を守らないと、せっかく書いた遺言が無効とされてしまいますので、注意が必要です。
自筆証書遺言の形式は、民法968条で規定されています。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
この条文を分かりやすく分解すると、以下のとおりです。
① 遺言書は、全文を自筆で書かなければなりません
(本文をパソコンで作り、最後に署名する、という方式ではだめ。)
② 作成した年月日を、具体的に記載しなければなりません
(「令和4年6月吉日」というような記載はできません。)
③ 署名と押印が必要です
(押印の際に使うハンコは、実印でなくてもよいです。認印でも有効ですし、拇印でも構いません。)
④ 修正する場合には、修正印を押すほか、変更したことを明記した上、その部分にも署名をする必要があります
(そのため、変更・追加の場合には、書き直してしまう方が無難です。)
なお、「自筆」の例外として、遺言書に「相続財産の目録」を添付するとき、その目録自体は自署しなくてもよいとされています。
(パソコンで作ったものでもよいですし、例えば、通帳のコピーを目録として使うこともできます。)
その場合には、「相続財産の目録」のページごとにそれぞれ、署名押印をします。
一言でいうと、「日付と署名押印を忘れずに、全文を自筆で書く。間違った場合には書き直す」ということになります。
前述のとおり、遺言を書く紙は、どのような紙でも大丈夫です。
封筒に入れて封をしなければいけない、ということもありません。
ただし、遺言書は、自分が死んでしまった後に、相続人に見つけてもらう必要がありますから、例えば、「遺言書」と分かる体裁にして、誰が見ても分かるように置いておいたり、相続人の誰かに預けておく、といった方法で、遺言書が存在すること
をはっきりさせておくことが良いでしょう。
遺言書は、書き直すことも自由です。
書き直した遺言書が、前の遺言書の内容と異なる場合には、最後の(一番新しい)遺言書が有効になります(民法1022条、1023条)。
また、1度書いた遺言書を捨ててしまうこともできますし、例えば、遺言書に「ダイヤの指輪を娘に相続させる」と書いた後に、その指輪を売ってしまっても構いません。
遺言書を破棄したり、遺贈の目的物を破棄したときは、遺言を撤回したものとみなされます(1024条)
遺言書は、いつでも修正、書き直しができるものですから、まずは、気軽に作ってみるということが大切です。
自分が亡くなった後、悲しんでいる相続人に無用の負担をかけないためにも、事前に財産の在りかを明確にして、誰に分けるかを決めておくことをお勧めします。
(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)