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契約実務のポイント(初級者編)-リアークト法律事務所-

契約実務のポイント(初級者編)

日々の事業活動では、様々な契約が締結されています。

常日頃から意識されているわけではありませんが、商品を買ったり、売ったりということは勿論、電気・ガスを使う、サービスを受ける、配達を頼むといった行為も、法律的には「契約」を締結している、と言うことになります。

ビジネスの現場では、必ずしも契約書を締結していないケースも多く、例えば、「デスクで使う文房具1個を購入する」という場合には、トラブルになる可能性も極めて低いため、わざわざ契約書を作ることはないでしょう。

しかし、金額・個数・納期など、取引が複雑になったり、大規模になったりする場合には、事前のトラブルを防ぐためには、契約書を作成することが重要です。

最近では、多くの「ひな形」がインターネット上にありますから、「『ひな形』を見て契約書を作成しました」という方も見かけますが、私たち弁護士の視点からすると、こういうところに気を付けていればよかったのにな、と思うことも多いです。

そこで、契約書を作成・締結するときに注意してほしい点について、説明したいと思います。

 ① 契約の相手方の権限を確認する

ビジネス上の取引であれば、契約の当事者は「会社」になります。

皆さんご存じのとおり、「会社」は法人ですから、「会社」が契約をする際には、誰かが会社を代表して契約書にサインをすることになります。

このとき、「会社を代表する人」が、「当該契約を締結する権限を有しているかどうか」を、まず確認する必要があります。

株式会社の「代表取締役(社長)」であれば、会社を代表する権限があるので問題ありません。

「支配人」も、法律上、会社を代表する権限を持っているので、こちらも安心です。

なお、「代表取締役」や「支配人」であるかどうかは、法人登記簿によって確認することができます。

では、「執行役員」という肩書の人はどうでしょう?

契約書に、「〇〇株式会社 執行役員 □□」と記名・押印があった場合、その契約は有効と言えるでしょうか? 

実は、「執行役員」というのは、法律上の定義がある役職ではありません。

(委員会設置会社における「執行役」(こちらは、法律上の定義があります。)と、「執行役員」は別物です。)

多くの会社では、「会社の業務を執行する人」というニュアンスで使われていることが多いように思われます。会社において、「事業責任者」の肩書として使われることもあります。

このように「執行役員」には法律上の代表権がないため、社内において、「執行役員」に「当該契約を締結することができる権限」が与えられているか否かを確認する必要があります。

こちらは、「代表取締役」や「支配人」と異なり、法人登記簿で確認することができませんから、相手方に直接確認する必要があります。

「事業本部長」「営業部長」などの肩書も同様です。

相手方の社内において、「事業本部長」は1000万円まで、「営業部長」は500万円まで、というように、金額や契約の種類について、契約締結権限が決められていることがあります。

 ② 契約の内容を確認する

「契約の内容を確認する」と言うと、「当たり前じゃん」という声が聞こえてきそうですが、とても大事なことです。

契約書では、契約当事者が「甲」とか「乙」などと表現をされることが多く、注意して内容を確認しないと、「共同事業を行って『お金を払ってもらえる』と思っていたが、契約書をよく見ると、こちらはお金を払う方と書かれていた」と言うことになりかねません。

では、特に、どのようなことに気を付ければよいでしょうか?

 ア 契約目的

契約目的が、きちんと記載されているかどうかを確認しましょう。

契約書の表題に「売買契約」「賃貸借契約」と適切に明記されていれば、それで問題がないことも多いですが、「業務委託契約」のような場合には、「誰に」「何を」「何のために」委託するのかを書いておいた方がよいと思います。

 イ 債務の内容

「誰が」、「何をする」契約であるのかを確認しましょう。

契約書上、相手に何を求めることができるのか、こちらは何をしなければならないのか、がハッキリと分かるように記載します。

 ウ 金額(代金、報酬など)

当該契約で授受される金額(代金、報酬など)が明記されているかどうかを確認しましょう。

計算式で示されている場合には、その計算式で、金額が計算できるかどうかを確認することが望ましいです。

 エ 債務不履行

どのような場合に、「債務不履行」になるのかを確認しましょう。

債務不履行となった場合に、直ちに契約が解除されるのか、そうでないのか、という点を確認することも大切です。

 オ 損害賠償

どのような場合に、損害賠償しなければならないのかを確認しましょう。

損害賠償を負う損害の範囲や、損害額の上限を定める必要があるのかどうかという検討も必要です。

 カ 合意管轄

紛争になった場合に、どこの裁判所で解決するのかを決めるものです。

合意管轄の定めによっては、離れた相手方の本店所在地で訴訟をしなければならず、訴訟対応の労力や費用が増えることもあります。

 ③ 契約書を適切に作成する

いざ、契約書を作る(契約を締結する)際にも、気を付けるべきことがあります。

 ア 契約書に押す印鑑

会社では、多くの場合「代表印」と「角印」を使い分けられています。

「角印」は、見積書や請書など、日常業務で使われており、会社の内部では誰でも(契約締結権限がない人でも)使えるように管理されていることが多いので、必ずしも信用性が高いとは言えません。

重要な契約には、「代表社員」を押してもらうようにしましょう。

 イ 捨印は押さない

「捨印」とは、あらかじめ契約書の余白部分に押印しておき、契約書に誤りが見つかったときに「訂正印」として利用できるように押しておくものをいいます。

つまり、究極的には、「捨印」があれば、契約書の内容を自由に変更することができてしまうことになります。

「捨印」は、簡易な方法で修正することができるので便利な場合もありますが、想定していない内容に修正されてしまうこともありますから、基本的には「捨印」は押さない方が良いでしょう。

 ウ 契印、割印は押す

「契印」とは、1つの書類が数ページに渡る場合や複数の文書からなる場合に、その一体性を確認するために、つづり目又は継ぎ目にかけて押す印のことです。

「割印」とは、複数の書類相互の関連を明らかにするために、それらの書類にまたがるように押す印のことです。例えば、契約書を2部作った場合に、その2部が同じものであることを確認するために押します。

契印、割印は、それぞれの文書の一体性、同一性を確認するものですから、煩雑でなければ全ての契約書に押してよいものです。相手方から求められた際には、押印するようにしましょう。

煩雑であれば、契約書を製本しまう、重要な契約にだけ押す、ということも考えられます。

 エ 余白は作らない

「捨印」と関連しますが、契約書には余白を作らないようにしましょう。

特に、代金額の部分や、債務の内容を特定する部分に余白を作ってしまったばかりに、内容を書き加えられたという例もあります。

契約書の最終ページと、署名押印欄に余白ができてしまう場合などには、「以下余白」と分かるように記載することもあります。

 オ 印紙を貼る

「課税文書」と言われる契約書には、印紙を貼ることが求められています。

「課税文書」には、例えば、不動産契約書、金銭消費貸借契約書、運送契約書、工事請負契約書、広告契約書、出資証券などがあります。

印紙を張り付けた場合には、印紙に消印を押すことも忘れないようにしましょう。

国税庁ホームページから、「印紙税額の一覧表」がダウンロードできますので、参考にしてください。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_ichiran_r0204.pdf

印紙を貼付していない場合でも、契約の効力が無効になるわけではありませんが、課税文書について印紙を貼付していない場合には、「本来必要であった印紙税の額」の3倍の過怠税が徴収されることがありますので、注意しましょう。

 

(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)

執筆日:令和4年5月24日