裁判所の「管轄」について(土地管轄)

裁判所の「管轄」について(土地管轄)

1.裁判所の「管轄」って何?

日常生活ではあまり意識されませんが、裁判には「管轄」というものがあります。

(少し違いますが)裁判所の「縄張り」のようなものです。

例えば、私たちの事務所がある「千代田区役所」では、千代田区に居住している人の住民登録は扱ってくれますが、港区の人の住民登録は扱ってくれません。

同様に、「裁判所」も担当する事件や区域が決まっており、そのことを「管轄」といいます。

「管轄」として有名なものには、「簡易裁判所は140万円未満の事件を扱い、地方裁判所は140万円以上の事件を扱う」というものがありますね(これは「事物管轄」といいます。)。

また、東京地方裁判所に「管轄」がある裁判を、大阪地方裁判所に提起しても、大阪地方裁判所では取り扱ってもらえず、その事件は、大阪地方裁判所から東京地方裁判所へ移されます(このことを「移送」といいます。)。

近年、弁護士が代理人として就いている事件では、大分「WEB」を利用した裁判手続きが浸透しつつありますが、とはいえ、手続きの中には、WEBで行うことができず、裁判所まで行かなければならない部分もあります。

一番は、証人に裁判所まで来て話をしてもらう「証人尋問」の手続きですね。

裁判を行う場所は、当然、自分たちの活動拠点に近ければ便利です。

また、通常は、訴訟対応をお願いする弁護士も、自分たちの活動拠点の近くで探すことが多いと思いますから、もし、遠方の裁判所で訴訟をすることになれば、その分交通費を多く負担しなければならないこともあると思います(そのほか、弁護士の日当がかかることもあります。)

そのため、「どの裁判所で裁判を行ってもらえるか」ということは、実務上はかなり重要です。

2.裁判所の担当区域

裁判所の管轄は、基本的にその土地ごとに決まっています。

東京都の事件であれば「東京地方裁判所」へ、神奈川県の事件であれば「横浜地方裁判所」へ、という具合に、県ごとに分かれているのが原則です。

(例外的に、北海道は、4つ(札幌、函館、旭川、釧路)に分かれています。)

あれ、東京都にも、「霞が関」と「立川」の2つ場所に地方裁判所があるんじゃない?

と思った方は、鋭いです。

ご指摘のとおり、東京都には、霞が関の「東京地方裁判所」、立川の「東京地方裁判所 立川支部」の2つがあります。

一応、この2つも、その土地ごとの担当が以下のように決まっています。

  東京地方裁判所

    → 東京都の特別区、三宅村、御蔵島村、小笠原村

  東京地方裁判所 立川支部

    → 立川市、府中市、昭島市、調布市、国分寺市など、上記以外の市、町

しかし、「支部」という名前のとおり、「立川支部」は、「東京地方裁判所」の一部として活動していると解されていますので、上記の担当区分は、法律上の「管轄」には当たらないとされています。

(「立川支部」を「支部」と呼ぶのに対し、霞が関にある「東京地方裁判所」を「支部」と区別するため、「本庁」と呼んだりします。)

そのため、法律上は、「立川市」の事件を、「東京地方裁判所(本庁)」に提起することも可能です。

ただ、実務上は、立川市の事件は、「立川支部」へ訴訟提起することの方が多いと思われますし、「本庁」に提起したとしても、「立川支部」へ移動されることもあります。

(違う地方裁判所へ移動することを「移送」というのに対し、同じ裁判所の本庁・支部間(ないし支部・支部間)を移動することを「回付」といいます。)

ちなみに、東京都の支部は「立川支部」だけですが、お隣の千葉県には「佐倉支部」「一宮支部」「松戸支部」「木更津支部」「館山支部」「八日市場支部」「佐原支部」という複数の支部があります。

私たちは東京都千代田区に事務所を構えていますが、立川支部は勿論のこと、千葉地方裁判所(本庁)、松戸支部、横浜地方裁判所、川崎支部、相模原支部、さいたま地方裁判所、越谷支部、川越支部、水戸地方裁判所、土浦支部、などに出かけていくこともよくあります。

3.土地管轄

では、「東京都に住むXさん」が「大阪府に住むYさん」に、「貸したお金を返してほしい」という訴訟を提起する際は、どこの裁判所に訴訟を提起するのでしょうか?

原則は、「被告の住所地」です(民事訴訟法4条)。

そのため、訴えられる「Yさん」の住所である「大阪地方裁判所」に提起することが原則です。

例外として、以下のような事件については、それぞれの場所に管轄が認められます(民事訴訟法5条)。

  • 財産上の訴え 義務履行地
  • 船員に対する財産上の訴え 船舶の船籍の所在地
  • 事務所を有する者に対する訴えで、

その事務所の業務に関するもの 事務所の所在地

  • 不法行為に関する訴え 不法行為があった地
  • 不動産に関する訴え 不動産の所在地
  • 相続権・遺留分に関する訴え 相続開始の時における被相続人の住所地

「貸したお金を返してほしい」というような金銭の支払いを請求する場合、お金を借りた人は、貸した人の住所地に持参して弁済することが原則です(これを「持参債務」といいます。)。

そのため、「お金を貸した人(債権者)の住所地」は、「財産上の訴えについての義務履行地」と言え、上記の例では、東京都に住むXさんは、東京地方裁判所に訴えを提起することもできます。

留意点としては、上記は「訴訟」の提起にかかる管轄であって、「支払督促」を申し立てる場合の管轄はまた別だ、ということです。

「支払督促」は、「債務者の住所地を管轄する簡易裁判所(の裁判所書記官)」に申し立てることとされており(民事訴訟法383条1項)、「財産上の訴えに関する義務履行地」のような管轄が認められていません。

債務者が争わない場合に、「支払督促」を利用するのは便利なのですが、争われた場合には、必ず、「債務者の住所地(を管轄する裁判所)」で訴訟手続が行われることになってしまいます。

そのようなことにも留意しながら、手続選択を行うことが重要です。

4.管轄合意

契約書に、以下のような条項が入っていることを見たことがある人は多いのではないでしょうか?

第〇条 合意管轄

本契約に関する訴訟については、東京地方裁判所を第1審の専属的合意管轄裁判所とする。

これは、「合意管轄」と呼ばれるものです(民事訴訟法11条参照)。

「当事者間の合意によって管轄裁判所を定めたのであれば、その合意を尊重しよう」ということです。

(ただし、この合意は、書面または電磁的記録で行う必要があります。)

前述の「東京都のXさん、大阪府のYさん」の事件を例にとれば、お金を貸すときに、契約書で「紛争になったら、両方の間を取って「名古屋地方裁判所」で訴訟をすることにしよう」と合意した場合には、名古屋地方裁判所に訴訟提起をすることができる、ということです。

そのため、契約の段階で、自身に有利な裁判所を合意しておく、ということは有効な手法です。

なお、契約書において、上記のように「専属的合意管轄裁判所」を定めたとしても、裁判所は、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、他の裁判所に移送をすることができます(民事訴訟法17条)。

また、「専属的合意裁判所」以外の裁判所に訴訟が提起された場合に、被告が異議なく応訴した場合には、応訴管轄が生じることになります(民事訴訟法12条)。

5 まとめ

今回は、裁判所の「管轄」について説明してきました。

普段は、あまり意識されない点ですが、いざというときに困らないよう、契約を締結する際、訴訟を提起する際には、「管轄」を意識することも大切です。

上記では、「地方裁判所」を例にとって説明しましたが、「簡易裁判所」は、その土地ごとに管轄を有しており、「本庁」「支部」のような関係にはありません。

そのため、「立川簡易裁判所」に提起すべき事件を、「東京簡易裁判所」に提起することはできませんから、注意しましょう。

(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)

以上