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行き過ぎた「価格交渉」にご注意

行き過ぎた「価格交渉」にご注意

1.価格交渉の良し悪し

事業を行う上で、商品の仕入れや設備の購入などは欠かせません。

そのため、ビジネスにおいては日常的に、コスト削減のために相見積りをとったり、他社の価格事例を引き合いに出したりするといった価格交渉が行われていると思います。

もちろん、価格交渉を行い、なるべく安い価格で、より良い品質のモノを仕入れることは企業努力として必要ですが、行き過ぎた、また、不当な交渉は、法令に違反してしまうことがあります。

そこで、どのような価格交渉が法的に問題になるかについて、解説します。

2 独占禁止法と下請法

ここで、まず最初に押さえておきたいのは「独占禁止法」と「下請法」です。

法律の名前を聞いたことはあるけれども、内容はよく分からない、という方も多いと思いますが、法律の目的・概要だけでも押さえておくようにしましょう。

「独占禁止法」は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにするために制定された法律で、端的に言えば、「競争を阻害する行為」を規制しようとするものです。

具体例として、新規参入者を妨害しようとする「私的独占」、不当な取引制限をしようとする「カルテル」や「入札談合」などが禁止されています。

「下請法」は、親事業者による下請事業者に対する優越的な地位の乱用を取り締まり、下請事業者の利益を保護するために制定された法律です。

「優越的な地位の乱用」とは、「自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為」とされており、もともと、独占禁止法でも禁止されています(19条)。

下請法は、特に、優越的な地位の乱用が起こりやすい「親事業者」「下請事業者」という関係にある取引を取り上げて、違反行為を類型化して規制していることに特徴があります。

具体的には、下請代金の減額、買いたたき、下請代金の支払遅延、物の購入強制や役務の利用強制、不当な給付内容の変更・やり直し等が禁止されており、発注内容を書面化したり、取引記録を保存することなどが決められています。

3 問題となりうる価格交渉

次のような価格交渉は、独占禁止法や下請法に違反するおそれがあります。

1.まとまった個数(例えば100個)の発注をすることを前提とした見積りを得て、少量(例えば5個)の発注の際にも当該単価を用いる

2.品質に劣る、安価な他社製品と比較して、価格交渉を行う

3.原材料価格やエネルギーコストが上昇しているにも関わらず、従前の取引価格を据え置く

4.単価の引き下げを合意した後に、引き下げ合意の前に発注した商品に対して、当該単価を遡及して適用する

ただし、十分な交渉を行った結果、上記のような価格になったという場合には、問題がないということがほとんどです。

そのため、価格交渉においては、

  • 品質や仕様、発注量など、比較対象として適切な事例を選んで交渉材料とする
  • 価格に関する合理的な根拠を示す
  • 得られる給付に対し、適当な対価となっているかどうかを検討する
  • 虚偽の情報(条件が異なるのに、同じ条件のように見せかけた他社の見積りを利用するなど)を用いた交渉は行わない

などを意識するとよいのではないでしょうか。

なお、「他の取引先から示された単価」を利用して価格交渉をすることは、当該「他の取引先」との間で契約違反(秘密保持義務違反)になる可能性があることに注意が必要です。

取引を行う際には、「取引条件等を定める契約」(継続的売買契約、取引基本契約等)が締結されることが一般的です。

そして、当該契約の中には、当該取引先との条件や内容については、秘密保持義務が課されていることがよくあります。

そのため、ある取引先(A社)との交渉材料として、他の取引先(B社)との取引条件を引き合いに出した場合、B社との間で契約違反(秘密保持義務違反)となりますから、最悪の場合、B社との取引契約が解除されてしまう可能性があります。

4.価格交渉を受けにくくするための留意事項

価格等の取引条件にかかる交渉は、実際のパワーバランスに大きな影響を受けることは周知のとおりです。

特に、中小企業においては、発注側というより、受注側に立つことが多く、対等な立場で交渉をしたり、発注側から示された条件を拒否することが難しい、ということもよくあることだと思います。

そこで、発注者から、条件交渉(特に「値切り」)を受けにくくするためのテクニックをご紹介します。

① こちらから先に取引条件を提案する

1度、発注者から条件を示されると、示された条件がベースとなって交渉が進みがちです。

そこで、発注者から条件を示される前に、受注者側から、ある程度具体的な取引条件を示してしまうということが考えられます。

また、受注者から取引条件を示す際には、公正取引委員会のウェブサイトで公開している参考例(※1)を使用するなどして、下請法等の法律知識があることを暗に示して、牽制するということも考えられます。

② 見積条件等が明確な金額を提示する

1度、見積金額を示してしまうと、その金額だけが一人歩きしてしまいがちです。

そこで、どのような条件で見積りを行ったのかを明記しておくことが考えられます。

また、それに加えて、仕様の追加、変更等が生じた場合における見積金額の変動について、算定方法を明記することができれば、より適切であると思われます。

条件の変更によって見積金額が変動することを了解して取引を始めたのに、合理的な理由がなく減額交渉を行ったり、条件の変更にも関わらず従前価格を維持するなどの交渉が行われた場合には、発注者が独占禁止法・下請法に抵触している可能性が高いと思われます。

5.価格交渉をしないほうがよい場合

一方、価格交渉をしないほうがよい場合もあります。

典型例は、1点モノの商品を取り扱っている場合です。

オーダーメイドの商品の場合には、そもそも、比較対象となるモノがないことが多いですし、同じように見えても、仕様、こだわり、手間のかけ方が異なるというのが通常です。

そのようなモノの場合には、価格交渉を行った時点で、そもそも取引をしてもらえなくなることも考えられますから、注意が必要です。

「価格交渉」というビジネスにおいて、いわば「当たり前」のことでも、内容によっては法律上の問題が生じることがあり得ます。

そこで、上記の点に留意した事業活動を行うことをお勧めいたします。

※1 公正取引委員会 法令・ガイドライン等(下請法)

下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則(平成21年6月改正)><書面の参考例>

https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/index.html

(※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、執筆時点のものであり、将来変更される可能性があります。)